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長崎地方裁判所佐世保支部 昭和36年(タ)15号 判決 1962年5月30日

判  決

本籍佐賀県杵島郡福富村大字福富下分千三百四十六番地

住所佐世保市高天町百六十七番地

原告

山田ハナ子

右訴訟代理人弁護士

木幡尊

国籍 南アメリカ・エクアドル国

住居所 不明

最後の住所 佐世保市汐浜町八十一番地

被告

ジミ・ゴンザレス・ミランダ

右当事者間の昭和三六年(タ)第一五号離婚請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告と被告とを離婚する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、主文と同旨の判決を求め、その請求の原因として、

一、原告は昭和二十八年頃より佐世保市汐浜町所在バー「ブラツク・キヤツト」に住込女給として稼働中昭和三十二年三月頃、当時米国油送船乗組員であつたエクアドル国籍を有する被告と同市汐浜町八十一番地金子正義方において事実上の婚姻関係に入り、次いで同年五月二十二日所轄佐世保市役所およびエクアドル国在日本横浜領事館に必要な届出をして法律上の婚姻をした。

二、ところが、被告は元来米国籍油送船の乗組員であり、当時アラビア航路に就航して居つて、一航海四十一日位して佐世保港に帰港し、一週間位滞在するのを常としたが、被告は結婚後約二ケ月を経過した同年七月頃前記住所地に原告を置いたまま佐世保港を出て行つたまま行方不明になつた。以来現在にいたるまで音信不通で、その所在はもちろん生死すら不明の有様で、この状態が三年以上経続している。

三、そこで原告は、被告に対し、民法第七百七十条第一項第二・三号および五号の事由により被告との離婚を求める。と陳述し、

立証(省略)

被告は公示送達による呼出を受けたが本件口頭弁論期日に出頭しない。

理由

その方式および趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき甲第一号証の記載およびその方式および趣旨により外国の官庁または公署の作成にかかるものと認められるから真正な文書と推定すべき甲第二号証の一・二の各記載に証人金子泰子の証言および原告本人尋問の結果を綜合すると、原告の本訴請求原因事実第一項および第二項記載の各事実を認めることができる。

そこで、本件離婚の準拠法について検討する。

まづ、叙上認定のとおり、被告は前叙婚姻当時エクアドル国籍を有するものである。被告が原告のもとを去つてから後は、その所在不明なるがためその後の国籍の変更の有無についてはこれを確めることができないけれども、新たなる国籍の取得が主張せられない限りは、叙上認定の離婚原因たる事実の発生当時(後述のおり原告のもとを去つて三年を経過したとき)もなおエクアドル国籍を有していたものと推定すべきである。したがつて、本件離婚請求事件は法例第十六条によつて「其原因タル事実ノ発生シタル時ニ於ケル夫の本国法」すなわちエクアドル法に準拠して裁判すべきものである。

次に、鑑定人矢ケ崎武勝の鑑定の結果によると、(一)エクアドル国における国際私法規定のうち、その離婚に関するエクアドル民法(一九五〇年六月三〇日法律第五五三号)第百六条によれば「婚姻締結地法によつて婚姻締結地において解消されうる婚姻も、エクアドルにおいては、エクアドル法によつてのみ解消されうる」旨規定されている。このことは、本件の場合わが法例第二十九条に規定されているところの日本法への反致がないことを示していること。(二)したがつて、本件離婚請求事件の準拠法はエクアドル法であるから、エクアドルにおける離婚法を見るに、離婚法を見るに、離婚原因を規定したその民法第百三十二条第一項第十三号には「三年以上婚姻関係の中絶の下にある別居」を離婚原因の一としてあげられている。エクアドル国においては現在裁判上の別居の制度が存在しない。(註・IRELAND & GALINDEZ. Divorce in the Americas (1947) p.286)

のみならず、右第十三号後段をみるに、この理由によつては、その事実によつて自己の意思を害された配偶者のみが離婚の訴を提起しうる旨が規定されている。してみると、同法百三十二条第一項第十三号にいう「三年以上婚姻関係の中絶」というのは、いわゆる婚姻生活関係が三年以上なかつたことであり、「別居」というのは事実上の別居状態をさすものといわざるを得ない。(三)以上の規定を本件事実関係にあてはめてみると、被告が原告のもとを去つたのが昭和三十二年七月頃であり、それ以来一度も帰来せず、行方も生死も不明であるというのであるから、婚姻生活関係を既に三年以上有せず、夫と妻とは別居の状態であること明白であるのみならず、原告は右の事実によつて意思を害されたものというべきであるから正に右エクアドル民法第百三十二条第一項第十三号に該当するものといえること。以上(一)ないし(三)の事実を認めることができる。

なお、渉外的離婚事件においては法令第十六条但書によつて「其原因タル事実カ日本ノ法律ニ依ルモ離婚ノ原因タルトキニ非サレハ離婚ノ宣告ヲ為スコトヲ得ス」との制限が存するのであるが、この点に関しては準拠外国法(本件の場合のエクアドル法)と日本法の認める離婚原因が必ずしも同一のものであることを要しないし、また同一の事実が夫の本国法と法廷地法(日本法)により、それぞれ異る性質決定を受けても共に離婚原因として認められれば足るものと解すべきである。

しかして叙上のとおり、本件離婚請求事件は準拠外国法たるエクアドル法の適用のもとにおいて離婚の判決をなしうるものであり、しかも叙上認定の事実関係は、現行日本民法第七百七十条第一項第三号にいう「配偶者の生死が三年以上明らかでないとき」に該当する。

よつて、原告と被被との離婚を宣言すべきであるから、原告の本訴請求を正当としてこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

長崎地方裁判所佐世保支部

裁判官 川 端   浩

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